「仏法も、その一つでしょう」
その言葉に英子が怪訝な顔をすると、更に
「おそらくは、厩戸皇子様であれば、感ずるところはあるでしょう。私の仏法は、まだまだ修行が足りませんが」
そう言って、声を上げて笑った。
真面目なのか、かつがれているのかわからない。いずれにしても、ここまできたら、法広の言う通りにする他はない。この男も空の手で来ているはずはないし、帰るつもりもないだろう。
「わかった。引き続き、法広は『気』とやらの方を頼む」
「お任せ下さい」
法広は頭を下げた。
集落を避けて進む。広い畑が連なっている地は、警戒して進む。十五頭の騎馬と輜重の馬車の一団。畑や山際を通っても、どうしても目立つ存在である。
両側が雑木林の細い道を一列になって進む。隊列の殿(しんがり)にいる老剣が、止めるよう合図した。すぐに先を行く英子のところに駆け上がる。
「どうした」
英子も老剣の脇で馬を止めた。
「囲まれています」老剣が小声で言う。
「五十ほど」
「まずいことになりましたね。これから山に入るというときに」法広が並んで言う。
「蹴散らしますか」
大犬が英子と老剣にささやく。英子は、待て、と押しとどめた。
「ここを抜けても、先に村もあるだろう。十の兵では戦いきれない。そもそも、戦のために来たのではない」
ではどうしたら、大犬はそういう顔をする。
「まずは、話してみることでしょう。彼らも戦は望んでいないはず」
そう、烏丸が口を挟んだ。