「ふたりの会話は社長室でのことなので隣の秘書室まで届かなかったみたいだけど……。お兄ちゃんがある程度、事情は話してくれたの」

当事者の発言か……。

「それなら確かにふたりは結婚話で揉めていたんだね。それで、いきなり女性のほうが自殺をほのめかして脅してきた……」

「そう! それで、お兄ちゃんはあの女を止めようとして逆にけがをしたのよ」

あずみはため息をついた。

「お兄さんは大丈夫なの?」

真琴の兄は、先ほど病院で処置が済んで、家に戻ったと聞いた。

「うん。病院で手当てをしてもらって、マンションの千尋さんの部屋にいるところ。警察にも事情を聞かれたけど表沙汰にしてほしくないから、単なる不注意のけがってことで納得してもらったみたい」

「そう……」

真琴の家では、スキャンダルになりそうなネタはご法度である。ただでさえ、数か月前に父親が火事で亡くなっており、そのときに妙な噂が流れたのだ。

「でも、お兄ちゃんったら優しすぎるのよ! あの女のことは訴えたりしないって言うんだから!」

真琴は悔しそうに話す。

「そりゃあ、スキャンダルになったら困るけど、これであの女と縁が切れるじゃない? けがを負わせたんだし、会社はそれで辞めさせることができるのに……」

真琴は意気込んで続ける。

「それなのに、お兄ちゃんはあの女を辞めさせないって言ったのよ!」

「そうなの?」

「うん。どうしてだろう。お兄ちゃん、あの女に弱みでも握られているのかな……」

「まさか……」

 

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