教室の引き戸は、長い年月で、建て付けが悪く、閉めても隙間があり、冷たい空気が遠慮なく通り抜けた。廊下は、運動靴の摩擦ですり減り、床板の木目が美しいレリーフのように浮かび上がっていた。歩くたびにギイギイ、キイキイと、外れかけた釘や老朽化した床板が耳障りな音を立てるが、幸三にとっては長年聞き慣れた、どこか心地よい音色だった。

建てられてから60年余りが経ち老朽化が激しく、来年3月には、閉校が決まっており、今年がこの学校で勉強する最後の年であった。

学校の前の道路は幅6メートルほどで、4キロ先の町へと続く唯一の幹線道路に面している。

色褪せ、ペンキが剥げ、朽ちかけた古木でできた学校の正門は、少なくなった生徒たちをいつも優しく迎え入れていた。

幸三は、「はあはあ」と息を切らせながら正門をくぐると、急いで欅の木で作られている框(かまち)で靴を脱ぎ、生徒用の靴箱に靴を放り込み、上履き用の白い運動靴に履き替えた。そして教室に飛び込み、聡子が座っている横の、使い古された粗末な木の椅子に、ドシッと腰かけた。

「遅いね、もう先生が来るよ。幸ちゃんは、いつも、ギリギリだね」

聡子はいつものように、息せき切って落ち着かない幸三の態度にはなんの興味も示さず、教科書の文字に目を走らせ、呆れたように、ぞんざいに言い放った。

 

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