第2章「細くて長い形」を使う文化
人類は一直線の姿勢で直立二足歩行をすることにより、脳と手足と声帯の進化が起こり、今日の人類の繁栄につながってきたことはよく知られている。人類は、脳が発達する過程で、考える人になり、さらに、脳と手を使って、ものを作る人になった。
「細くて長い形」は一次元の単純な形であるため、人間は知恵をめぐらし、最初に一次元の形のままで利用できる物を作りだした。さらに、一次元の単純な形を組み合わせ、二次元の形をしたものや三次元の形をしたものを作り出してきた。冒頭に紹介したエッツィの衣服や所持品の中に、一次元の形状の繊維材料を組み合わせて作ったものが沢山見られた。
人類の長い歴史の中で、人類は先祖の人々が作り出した知恵を受け継ぎ、それに自分たちの世代で培った知恵を付け加え、子孫に伝承していく過程を繰り返してきた。一次元の単純な形に対しても、人類は先人の技術をベースにして、自分たちの知恵を働かせ工夫を加えることにより、数えきれない多くのものを創造してきた。
人類は、衣・食・住すべての分野で、「細くて長い形」をした材料を使って、多様な文化を発展させた。
衣の分野では、約一万年前に天然の植物から「細くて長い形」をした繊維材料を取り出し、衣服や身にまとう物を作りあげた。食の分野では、「細くて長い形」をした麺類が多くの民族に受け入れられ、食卓にのぼった。住の分野では、樹木から「細くて長い形」をした材木を取りだし、いろいろな構造物を作りだしてきた。
さらに、「細くて長い形」をした中空管に息を吹き込み音楽が奏でられると、瞬時にして人々を別世界に導き、高揚感や癒しのような感情が醸し出される。今までに示したこれらの事例は、ほんの一端を示したにすぎない。私たちのまわりには「細くて長い形」の代表選手が一杯である。