頭がクラクラするのです。少しずつ気分も悪くなってきました。引き返したいと思いましたが、登ってくる人がいるので、それもできません。

周りの人たちを見ると、楽しそうに談笑しながら余裕たっぷりです。どうして私だけが……。下を見て、さらに目が回ってはいけないと思い、一歩一歩前だけを見ながらゆっくり歩き続けました。

同行の彼も、私が気分が悪くなったことに気がついたようで、いろいろといたわってくれましたが、私はできるだけ平静を装って登っていきました。

「顔色が悪いようだけど……、どうしたの?」気遣うように私に視線を向けて尋ねます。

「なんだか分からないけど、下のほうを見たら目が回って」と答えましたが、自分でもどうしてそうなったのか、さっぱり分かりません。

「いつも空を飛んでいるから、高所恐怖症はないと思ったけど」

彼は心配そうな面持ちで言ってくれますが、もちろんそれはありません。やはり斜塔であることが、微妙に関係しているのかもしれません。というのは斜塔の頂上に着いた途端に、すっきりして気分がよくなったのです。頂上だけは垂直になっていたのです。

私が最初にピサの斜塔を訪ねた頃は沈下が最も進み、傾斜も大きくなっていたらしいのです。その後1990年、イタリア政府は安全上の配慮から、斜塔の公開を中止しました。

傾斜角を是正するために大掛かりな改修工事が行われ、その工事は約十年間続きました。そして2001年に再び公開される運びとなりました。

再び訪れたピサの斜塔

私がピサの斜塔を二度目に訪れたのは、再開されてから数年後のこと。

一度目は私がまだ独身で現役のCAとして飛んでいた頃でしたが、二度目はそれから三十数年後で、成長した娘が一緒でした。そのときには、初めてのときよりも観光客が大幅に増え、たくさんの人波が塔に向かって歩いていました。

娘は写真が趣味で、玄人はだしのアマチュアカメラマン。ピサの斜塔にすっかりはまっています。母親の私に「手を伸ばして」とか「もっとこっちに顔を向けて!」など、あれこれ指図しては、私をモデルに奮闘して飽きることがありません。なかなか塔にたどり着かないのです。

この日のスケジュールは、斜塔を見学した後、次の目的地に向かうため、期間が刻一刻と過ぎていきます。

「少し急がないと」と促して斜塔に向かいました。

 

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