「お前、本当に陳腐な探偵気取りなんだな。まさかボイスレコーダーまで持っているなんて思いもしなかったよ。だがな、お前、最初に『探偵ごっこ』に付き合えって言ったよな。だから俺もその探偵ごっこに付き合って、犯人役を演じてみただけのことさ。今言ったことは全て証拠なんてない、ただの俺の空想だ。警察に提出する時はここまで削除せずに出すんだぞ」

「蒼!」

「友人面して分かったような説教するなよ。俺は中学の時もお前を友達と思ったことは一度もない。ただお前が親友面してくるからとりあえず合わせておいただけのことさ。俺は今までに肉親も含めて一度も他人を信用したり、共感したりしたことはなかった。

ただ、梨杏だけが……俺のせいであんな酷い目に遭っても、俺を好きだと言ってくれた梨杏だけが俺が唯一心を許せる存在だった。憎しみと悲しみを梨杏と共有することで俺はやっと人間らしく生きられた」

蔑むような蒼の冷たい視線を浴びて海智は言葉に詰まった。

「話が済んだら帰れよ。目障りだ」

そう言うと、蒼は再び西の空に目を移した。茜色はすっかり消えて、山の稜線の上にはほの白い光が残っていたが、その上から天頂までは既に海のように深い青が占めていた。くすんだ青色へと変わった川の漣は海こそ我が家と皆同じ方向に向かっていた。

「海智、帰ろう」

一夏がそっと海智の手を握った。温かい手だった。海智は蒼の横顔をしばらく睨んでいたが、そのうち踵を返すと、地面を睨むようにうつむき、肩から力を抜くのを忘れたように強張った姿勢のままでその場を去った。