あたたかな涙

涙を流すのは 嬉しいあまり

頭の奥がぼんやりほどけて 言葉にならない わたしの想いは

涙になる あたたかな 証

 

嬉しかった 楽しかった

そんな時代も いつかは終わって

ピントの合わない 奥行きのない 平らな世界が わたしを待ち受けている

直線にさえぎられる わたしの思考 途切れがちな 毎日

 

もっと 優しければ 柔らかければ 容易(たやす)ければ

穏やかに生きることは この世界では不可能だ

そんなことをちらりと考え 恨みと諦めを同時に抱く

立ち止まれない 振り返れない

めまぐるしく 入れ替わる 世界には なにも残らない

 

そんなときに 思い起こすのは

嬉しかった あたたかかった 確かにあった あのときの涙

わたしの全身に降りそそぐ 心地よい 涙

この記憶があれば 大丈夫だと 自分に言い聞かせて

激動の世界に身をゆだねる

 

愛した日

あなたを愛した日は 特別だった

わたしにとって 特別だった

かけがえのない 宝物だった

あの時間は 財産だった

 

わたしの中の一番やさしい表情をあなたにあげたの

受け取ってくれるあなたがいてくれて

わたしは 本当に幸せだった

 

あなたに出会えたことは 奇跡だった

あなたと再会できたことも 奇跡だった

傷つけられ 泣いて苦しんだ日も

今となっては 尊いカケラ

 

あなたの中では

ふたりして

「運命だね」

と喜んだことが 昔話になっていても

わたしにとっては 本当に運命だった

 

わたしがあなたを苦しめたことが

あなたの中でわだかまりになっていないことを祈って

あなたの瞳に映る世界が

すこしでもやさしいものでありますように

 

人生の岐路に立つたびに

わたしの心はあの時に帰る

あの日に立ち帰る

そして 涙の記憶を越えて

また ひとつ強くなる

 

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