【前回の記事を読む】58歳で起業「全てを失う覚悟はあるか?」――引退には早すぎるが、再就職は難しい年齢。逡巡していると“起業”の話を持ち込まれ…
第二章 私の学生期~家住期
22歳~75歳までの「家住期」 一家の主として
加えて、仕事は景気に左右されない、むしろ不景気の時の方が、需要が増えることが期待されました。顧客は、口コミで少しずつ増えていきました。また、以前の会社の友人からの紹介も得ながら売り上げも着実に増えていきました。
紹介された顧客が大口顧客になり、友人には大いに感謝しております。
社員数を増やす事は費用が増えることであり、極力制限しました。その代わりに、ホームページを有効に利用して、顧客獲得のための効果を出すよう業者も利用しました。その結果、同業数社の業績を比較分析した結果では、一人当たりの売上は、一番でした。
業績も順調に伸びていましたが、70歳を越えるころから、会社の将来の事を考える時間が増えてきました。会社の後継者についてです。私には、後継者がいないため、自分が引退した後を誰に委託すればいいか、という大きな問題です。
「後期高齢者」になる75歳を引退時と決めて、後継問題を調査したり、検討した結果、「M&A」(会社譲渡)がベストであろうとの結論に至り、東京商工会議所内にある「事業承継・引継支援センター」へ相談に行きました。
早速、商工会議所の会員の中から、当社に興味を持つ会社を10社程度紹介いただき、同じ業界の会社を数社に絞り、直接面会をして、交渉条件などを話し合う機会を作っていただきました。
その中から、条件が合致した会社と交渉を繰り返し、最終的に「株式譲渡」の方法で会社を引き受けていただくことにしました。
M&A専門会社の仲介を経ずに、両者間で契約できたため、仲介費用も節約することができました。
会社の引渡しも終わった現在、振り返って思うことは、会社の譲渡はお見合いで相手を選ぶ作業とよく似通っているということです。コロナ前に契約が完了し、2021年に完了できました。それが、コロナ蔓延中であればこれほど順調に完了できなかっただろうと、今は安堵しています。
創業から17年間の経営者としての責任を全うして、私の責任はすべて完遂できたと信じています。
これが、私の「家住期」の53年間でした。
「学生期」、「家住期」という人生の前半生の75年間は、戦後の焼け跡から経済成長期、オイル・ショック、リーマン・ショック、パンデミックを経験した人生でしたが、健康で順調な人生でした。
「家住期」が予定より長くなってしまいましたが、経済的にはこれからの「林住期」を生きていくための安心感を得たと思えば、幸いの結果でした。
これまでの75年間の自分の人生を思い出しながら書いてきましたが、自分の記憶の明確な部分と、曖昧になっているところがあることに気づきました。
人間の記憶は、短期記憶と、長期記憶があるそうです。短期記憶は、「ワーキングメモリ」と言って、頭の中で計算をするために一時的に記憶するもの、コンピューターでのメモリー部分に相当するところだと思います。
長期記憶には、年齢が増えると記憶が薄れる「エピソード記憶」があります。「いつ・どこで」という情報を伴う記憶で、今、自分が思い出している記憶そのものです。
「林住期」を迎えて、これからは、エピソード記憶をはっきり思い出すために、古い写真をながめたり、友人に会って、昔話をする時間を作ったりすることも楽しみになります。