「だが、梨杏は俺にこれ以上人を殺さないよう懇願してきた。だが、俺の憎しみはもう抑えることができなかった。俺と梨杏が八年間、地獄の苦しみを耐えてきたのに、その元凶であるあいつらは平気な顔で人生を楽しんでいる。自分達が犯した罪の重さを振り返ることすらしない。そんな奴らは死罪に値すると確信した。

だが、梨杏はそうではなかった。彼女は石川のインスリン入りの点滴を止めようと思ったらしい。だが、石川が意識がある間は病室に入れない。だから、点滴が始まってしばらくしてから病室に侵入したが、その時には既に殆ど点滴は終わってしまっていたので断念したようだ」

「経子さんはこのことを知っていたのか?」

「いや、経子さんにはこのことは秘密にしていた。だが、お前達から梨杏の姿を見たと聞いて、怪しいと思ったんだろう。梨杏を問い質してこの計画を知ることになった。勿論、経子さんからも必死に止められたよ。だが、俺は中途半端は嫌いな性格だ。残りの二人も必ず殺すと決めていた」

「それを知った経子さんが、お前の罪を庇うために、高橋漣と宇栄原桃加を殺して自殺した。それどころか将来を悲観して自分の娘まで手にかけた」

「それは違う」

「違う? どう違う」

「経子さんは梨杏を殺していない」

「えっ?」

「俺の罪を被ろうとしたのは梨杏が先だ。梨杏は俺が殺人に手を染めたのに相当心を痛めていたらしい。彼女は今まで点滴されていた麻酔薬を少しずつ密かに注射器に集めて取っていたようだ。昨日の花火大会の夜は経子さんが来る予定だったから、梨杏が早く覚醒できるように日中から点滴も生理食塩液のみにしていた。梨杏はその中に大量の麻酔薬を混注したんだと思う。

お前達が病室から出た後、経子さんが人工呼吸器を外した時、梨杏は昏睡状態だったが、経子さんは眠っていると思ってしばらく放っておいた。だが梨杏はそのまま息をすることはなく、死んでしまった。経子さんは床頭台の引き出しの中に空の注射器と梨杏の遺書を見付けた。そこには中村大聖と石川嵐士を殺したのは自分であると書かれていた」

「それじゃあ、何で経子さんは二人を殺したんだ」

次回更新は8月24日(日)、11時の予定です。

 

👉『眠れる森の復讐鬼』連載記事一覧はこちら

【イチオシ記事】帰ろうとすると「ダメだ。もう僕の物だ」――キスで唇をふさがれ終電にも間に合わずそのまま…

【注目記事】壊滅的な被害が予想される東京直下型地震。関東大震災以降100年近く、都内では震度6弱以上の地震は発生していないが...