第一部 自閉症の世界への道

第一章 かれらにつながるきっかけ

お隣のJ君

自閉症という名称さえ知らなかった私が自閉症の世界の扉に手を伸ばしたのは、特別な思い入れがあったわけでも何でもなく、近所付き合いがきっかけだったに過ぎない。

私たち家族は、昭和四十八年から千葉の埋め立て地にできた団地(当時流行り始めていた公団住宅)に住んでいた。ここの住人は年代的に家族構成が似ている家庭が多かった。同じ棟の隣の階段の二階に住む家族の兄弟は我が家の長男、次男と同い年ということもあり、親しく行き来していた。

その家のJ君は二歳過ぎからお母さんの悩みになり、しばしば涙ぐんで話すことが多くなった。確かにJ君の行動を見ると、口先だけの助言やいい加減な気休めを言える雰囲気ではなかった。

ある時、玄関先で寝転び泣き喚く彼をどうすることもできなくて涙ぐみながら見守っていたお母さんは、次男は自閉症だと、その時カミングアウトした。私は何も言えなかった。

 

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