(2) 世界一流の研究に触れた大阪大学理学部関研究室での実験・研修

そのとき、筆者が、大阪大学理学部化学科関研究室でさせていただいた液体水素温度(11K(マイナス262℃))から常温までの比熱容量の測定に基づくガラス状As2S3 (ガラス転移点181℃。

なお、結晶の融点は310℃)の標準状態でのエントロピーの測定値は、当時世界で最も詳しかった(図1.1)。

比熱容量とは、物質1単位(モル)を1℃上げるのに必要な熱量である。エントロピーは、物質が分子構造的に整置した状態に比しどの程度乱れているかを示す状態量(物性値)であり、標準状態とは、25℃(298・15K)、1気圧の状態である。

 

次の表1.1に示したとおり、結晶状態のAs2S3で157.833J/mol・degで、ガラス状態で172.202J/mol・degで、ガラス状態の方が9・10%大きい。

エントロピーは比熱容量の曲線の下方の面積である(ʃCp(Q/T)dT)。それのみでなくAs2S3の結晶とガラスで、温度に対して比熱容量を表した曲線が、通常の物質に比して近く、しかも140Kあたりで交叉するという現象が見つけられた。

そして他にX線回析測定の結果にコンピュータによる構造計算も考慮して、ガラス状As2S3は、結晶As2S3よりやや不安定であるが、それに類似の鎖状構造であることが推測できた。

ガラス状は非晶質の一つであり、As(ヒ素)は半金属である。この研究の速報は、私の論文K. Kageyama, M. Imaoka, H.Suga, S. Seki, "Calorimetric and X-ray Studies of Glassy andCrystalline Inorganic Polymer: Arsenic Trisulfide, As2S3"(Reports on progress in polymer physics in Japan Vol.XII,1969 p.253)のとおりである(図1.1の概要及び表1.1は同論文から引用)

 

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