「亜紀ちゃ~ん、来たよ~」
南君が手を振りながら私に近付いて来た。カゴにはもう数点の服が入っていた。
「今日は凄い人だね。大丈夫? 疲れてない?」
「大丈夫です。すみません、ちょっとお客様に呼ばれましたので……」
逃げるようにその場を去り、お客様の対応をする。南君は悪い人ではないけれど、馴れ馴れしい所が他のお客様によっては不快に感じるのでは、という心配があった。
お昼を回っても人の波は収まらず、お目当てのブランド品を目指して接戦が起きていた。品出しにも追われ、じっくりとお客様の対応をする事もできず、少し焦ってしまい、長澤さんから注意を受ける事も少なくなかった。
こんな状態でランチタイムに入れる余裕はなく、十四時過ぎにようやくランチに入れた。
「はぁ、疲れた」
バックヤードにあるテーブルに突っ伏し、ぐったりとしてしまった。こんなに忙しいのは開店セール以来だ。流石誕生祭と言うべきか。
「大丈夫?」
長澤さんが心配そうに声を掛けてきた。
「あ、はい。大丈夫です。……あ、今日でお店の一周年ですね。おめでとうございます」
「ありがとう。ああ、今夜、飲み会するから、必ず参加するようにね」
「今夜、ですか?」
「一周年記念のお祝いだから、三人で祝いたいんだ」
「……分かりました」
本当は俊雄さんと連絡を取りたかったけど、誕生祭というイベントのお祝いは……断る事ができない。
長澤さんが去った後、昼食も喉を通らず、俊雄さんの事で頭はいっぱいだった。でも未だに連絡がない。
どうして連絡してこないの? 何かあったの?
心配と不安の入り混じったマイナスの気持ちだけが募っていった。でも、そう思うのは私の一方的な思いで、連絡をしてこない俊雄さんは何とも思っていないのではと思うと……それが寂しかった。
「俊雄さんの馬鹿」
私はそう呟くと、LINEに、今夜は飲み会だから、とだけ打って送った。