こんなに理緒子を物思いに沈ませているその問題が、たとえ越前、あるいは山川を横取りされることであったとしても(まあ、あり得ない話だが)、自分は友のためにこの身を犠牲にするだろう。

それからはいつもの白日夢――ありもしないさまざまな困難な状況を考え出しては、勇敢に友を助ける美しい友情を思い描いて、物語にうっとりするという空想癖が続き、タクシーに揺られながら、越前の言葉の余韻はどこへ行ったかと思うほど、奇妙きてれつな夢想に入り込んでいくのだった。

駅近くのファミリーレストランの前でタクシーを止めた。もっと洒落たレストランも知っているし、中学の同級生が副店長をしているバーも頭に浮かんだが、夢想に浸っている間に曲がる角を通り過ぎてしまい、Uターンしてたどり着くよう道順を説明するのが億劫だった。

そこは〝コーヒーおかわり自由〟のファミレスで、山川と一緒に入ったときには二人合わせて12杯もがぶ飲みし、おなかをタポンタポンにして出てきたものだ。

「あんたの話から聞くわ」

理緒子がおしぼりを取って言った。そして、あさみの赤くなっている頬を容赦なくじろじろ眺めた。これから話すことに恥ずかしさを感じて、あさみの頬は赤外線ストーブに当たったみたいにほてっていたのだ。

「あんたは山川さんに会ったし、そのあとで越前さんも見た、わよね」

あさみは破いたおしぼりの半透明の袋を畳んだり、広げたり、結んだりしながら話した。

本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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