山川と組んで踊りながら、人々の混雑のすき間からたびたび越前と目を合わせた。どんなふうにして二人で帰るのか、と問えば、大丈夫、僕に任せて、と答えるような眼差しの交わし合い。

心臓がドキドキと速い脈を打ち始めた。山川の腕に置く左手の指先は細かくふるえ、ステップを間違えても笑うゆとりがなくなった。

山川は何も気づかなかった。陽気で言葉が多く、心からパーティーを楽しみ、婚約の喜びを全身で謳歌している。彼に用心することは何もなかった。

悪いんだけど今夜は一緒に帰れないの、と言えば、残念がりはするだろうが、しぶしぶ一人で帰ってくれるだろう。山川との生活は飽きるほど単純で簡単に見える。

判で押したように続く、もめごとの起こらない平和な日々が目に浮かぶ。お使いしてきてちょうだい。いいよ。お掃除しといて。わかった。

あしたは映画を見に行きましょう。そうしようそうしよう。心の弾みもメリハリもなく、レールに乗った単調な毎日……。

で、越前の場合には? それはさっぱり見当がつかない。いや、はっきりわかることが一つある。浮気にはさぞかし悩まされるに違いない、ということだ。

しかしながら、理性が考えつくありとあらゆる悪い予測や障害は、燃える愛の炎の前に、なんと解決容易で微々たるものに見えることだろうか。

次回更新は8月11日(月)、22時の予定です。

 

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