第一章　青天霹靂　あと377日

二〇一五年

十一月二十四日（火）脳神経外科、近藤医師の説明

「患者さんにとって良い方法が見つからない場合は、何もしないというのも一つの方法です。そもそも、何ら正確な診断もないままでは、『そんなリスクの高い治療は出来ない』と、放射線科の先生も言うはずです」

彼はパソコンから目を離すことなく、サジを投げるように言い放った。そして、その無機質な言葉に私は遂に切れた。

「リスクもデメリットも分かっています。それを母の前で隠さず言って下さるのは有難いですが、でもね、人というのは最後に聞いた言葉を強い印象とし、患者は不安を心に残すものです。

そりゃ百％の治療はないでしょうけど、私たちはね、『リスクがあるから出来ません』ではなく、『リスクはあるけど最善をつくします』っていう一言がほしいんですよ。たしかに、病態がどうであるかも判らずに闇雲にやるわけにはいかないというのはもっともです。

しかし、少なくともMRIや生検の結果、さらに多くの先生方の判断と入念な準備のもとに行っていただくわけですから、その確率は既に五分五分であるわけがないと私は思っています。