アパート1階10坪の店舗。車が入れない路地にあるので格安の家賃! しかも初期費用は3ヶ月分ぽっきりの15万円! これなら昨日、友達が払ってくれたお金で払える! 早速電話して店舗を見に行き、その場で即決!
立地だの建物の綺麗さだの、選べる状況ではなく、ただ今ある現金で借りられる物件という、それだけの理由で契約してしまいました。
一晩泣き続け、眠り続けて落ち込んだ私。でももう泣いている暇なんてありません。これからは自分のお金で自分の店をなんとしても創らなくては。
すぐに建築家の彼に連絡して内装を手伝って欲しいと頼みました。彼も前の店の内装を手がけ、私が一生懸命店創りに奔走してきたのを知っているだけに、今回の出来事にはとても心を痛めていました。泣くだけ泣いた後、私が突然、お店をやると言い出したのでびっくりしていましたが、「お前は本当に転んでもタダで起きない女だな」と喜んでくれました。
タダでは起きない女が借りたのは、なんの変哲もない古いアパートの一室。お店にするには何かしら手を加えなければなりません。
数日後、たまたま彼の仕事で、昭和初期の開業医の家が解体されるという話が入ってきました。内装工事をするにも予算がほとんどないのですから、今あるものを利用するしかありません。自分の店を作る計画なんてなかったので、廃材や店に使えるような材料など、当然ながら何も持っていないのです。だからこのタイミングで、そんな現場の話がやってくるなんて、なんとラッキーなことでしょう。
軽トラを借りて、バールやインパクトを持って、いざ解体現場に。入口のドアや建具、キラキラしたダイアガラスの窓などを外し嬉々として帰ってきました。そのまま内装工事開始です。
廃材だったドアや窓ガラスの枠にペンキを塗ったり、壁に和紙を貼ったり、彼の手元にある古材を棚にしたり、什器もないので建築現場の足場にグリーンのペンキを塗って洋服のラックにしたり、家にあるベニヤ板に布を貼ってカウンターにしたり。とにかくあるものを生かして、お店らしい体裁を整えていきました。
こうしてお店を辞めて2週間。私のお店が突貫工事で完成しました。起業するにはもっと熟考し、ドラマがあるのかもしれませんが、考えたり迷ったりしている暇はなく、切羽詰まった状況の中、怒涛のような波にのってお店を創ってしまいました。
大量の在庫を抱え、持ち金もない。ただ泣いているだけでは先に進めない。小さくてもいいから自分の力で商品を並べて売れる場所を作りたかった……ただそれだけのモチベーションで始めた店です。今度こそ自分の好きな商品を堂々と並べて、それを売って、子どもたちとの生活費を稼がなくては。
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