「なんてわがままな人なの、あんたって人は。なんのためにあたしがここへ来てると思ってるの? 山川さんとダンスをするために、こんな衣装を手間暇かけて準備して今日を迎えているの。
彼はあたしの婚約者なの。きょうは夜まで彼と踊るの。たとえあんたの頼みでも、絶対に予定を変更なんかしない」
「変更してよ」
「ふざけてるの?」
「本気よ。ぜひ聞いてもらいたいことがあるんだ」
「わかった。それじゃ、次の日曜日に会いましょう。そのときにゆっくり聞いてあげるわ。連絡はまたあとでする」
あさみは畳んだものを持ってキッチンを出ようとした。理緒子が通せんぼするように体で出口をふさいだ。
「次の日曜じゃ遅いのよ。だって、この一週間に何が起こるかわかんないじゃない。女にとって――」
「まだいたの?」
山川がトイレから出てきた。
「いま行こうとしてたところ。先に上へ行ってて」
「何してるの?」
「ちょっとお話してるの。女の子のお話なの」
〝女の子の話〟では加わるわけにいかない。彼はちょっと頭を掻いてから引っ込み、階段をのぼっていった。
「女にとって?」
あさみが続きを尋ねた。