信之は中学校ではバスケットボール部に所属している。中二にしては身長が高く、一六八センチで背の順でも後ろの方だ。それでも彼は運動神経のよさを買われて、チームでのポジションはガードだった。

信之はちょっと考えてから、階段を下りてリビングに行った。そこには、家族共用のパソコンがある。彼はパソコンを起動させると検索ページを立ち上げた。世の中には想像の遥か上をいく中学生や高校生がおり、彼らのプレイを動画で見るのがここ最近の信之の楽しみの一つになっている。

彼が特に関心を持っているのは、高校のインターハイの動画だ。驚愕のプレイで相手のディフェンスが翻弄されていく様を見るのは、この上なく痛快だった。

そんな動画を見ようとキーボードに手を伸ばした時、検索画面のトップページに表示されているニュースが彼の目に留まった。

見出しに、彼が住んでいる「大阪・箕面」という言葉と「死体遺棄」という言葉が並んでいた。信之は心拍数が上がるのを感じた。

殺人でさえも毎日のように起こる世の中だが、自分の住んでいる市内で起こったとなると、何か楽しいイベントのように興味をそそられる。彼は見出しをクリックし、事件の詳細ページを開いた。それと同時に、「父さんも、駆り出されてんのかなあ」と思った。記事の日付は、昨日の十七時四十五分となっていた。

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二月十二日日曜日の午後四時、中岡泰生は阪急電鉄箕面線の箕面駅でタクシーを降りた。

中岡はこの日非番だったので、市の体育館でバスケットボールをしていた。しかし、休憩中にスマートフォンを確認すると着信が入っており、それは彼の上司である菅谷(すがたに)課長補佐からだった。中岡は休憩室を出ると、咳払いを一つしてから折り返し電話をした。すぐに電話に出る気配があった。

「お疲れ様です。中岡です」

「ああ」聞き慣れた太い声で返答があった。

「何かあったんですか。というか、何かあったんですよね」

「そうや、何かあったんや。死体が見つかった」

「どこでですか」

「箕面の滝や。そこの山道で見つかったらしいわ」

「えっ! あそこで、ですか?」中岡は一瞬言葉に詰まった。

「なんや? どうかしたんか」

「いえ、別に」

「非番のとこすまんけど、今から現場に来てくれ。俺はもう来てる」

そう言って電話は一方的に切られたのだった。

 

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