【前回記事を読む】「174番」これが、俺に与えられた新しい名だ。俺は、捕まったのだ。逮捕されたのだ

五行山(ごぎょうさん)

勤務先も、何の連絡もなく俺が出社してないので、不審がっているはずだ。今までの会社員生活では、俺は遅刻もせず、無断欠勤などもしたことがなかった。基本的に真面目な社員で通っていたはずだ。

しかし、仮に電話できたところで、何と説明すればいいのだろう。

「すみません、マリファナで逮捕されてしまったので、今日は出社できません」とでも言うのか。どうしたらよいのか、さっぱりわからなかった。

俺は、布団を適当にたたむと、看守に案内され、鉄格子の扉から、房の外へ出された。房のすぐ外は、留置場の通路兼、踊り場だ。

幅7メートル、奥に向かって長さ15メートル弱はあるだろうか。まあまあ広い。布団をしまう物置は、房を出て右側へ5メートル先にある。布団置き場は、一般家庭の押し入れのようになっており、布団は総じて清潔そうであった。保育園の小便臭い布団よりマシだなと感心した。布団をねじ込んでから、サッと周囲を見渡す。

俺のいた房も含めて留置場は、5部屋ほどだろうか。同じ鉄格子の部屋が連なり、それぞれの部屋に2人から3人ほどいるようだ。もちろん中にいる人間は、逮捕されている者ばかりだ。

タトゥーをしている奴がいたり、さまざまで、年齢も20代から50代くらいだろうか。立っていたり、座っていたり、特に楽しくも、苦しくもなさそうな様子だった。皆一様にヒマそうだった。

トイレを含めても、4畳の広さしかない部屋。満足に体を動かすスペースもない。やる気のない猿がいる動物園みたいだ。あまりジロジロ観察すると、中の奴に目をつけられる可能性がある。

俺はすべての房を一瞥(いちべつ)するだけにとどめ、サッと視線を逸らした。

房に戻ると、さっそく岩井さんが、嬉しそうに話しかけてきた。

「兄さん、何やったんですか?」