その声には、隠しきれない好奇心が含まれていた。俺は、一瞬迷った。ここで、見ず知らずの初対面の人間に、自分の罪状を軽々と吐露(とろ)してよいものか。
岩井は悪い人間に見えなかった。きちんと挨拶もできる。多少、見た目がいかついが、わんぱくな小学生のような雰囲気と、無垢な輝きが瞳の中にあった。質問に悪意はなさそうだ。
今後ここにいつまでいるかわからない。関係を悪くしたくなかった。もしかすると、いいアドバイスがもらえるかもしれない。俺は答えた。
「マリファナです」
「ほう、所持?」
「いや、栽培です」
答えるごとに、胸が苦しくなった。喋ることで現実を認識しだした。できれば認識したくない。悪夢のままであってほしいのに。
家族は、息子の凛太はどうなったのか、それだけが思い出されて胸が締め付けられるようだ。
岩井さんは、
「そうか。似てるね。俺はシャブ。シャブとヤミ金」
俺は、少し面食らった。岩井さんの初対面の挨拶や、印象では、わりと普通の人間に見えたからだ。血色も良いので、ヤク中には見えない。
それが、ヤミ金だ、シャブだ、何のことはない。岩井さんはヤクザだった。人は見かけによらない。そして俺は、人を見る目がない。
少し動揺した。俺は、けっこうまずい相手に、余計なことを喋ってしまったのではないか。
昨日の深夜に房に入れられる直前、看守が、
「変な人はいないから、安心していいよ」
と言ってくれたが、俺を安心させるための詭弁(きべん)か、油断させるための意地悪か。それとも、この極道以上に変な奴がいるのか。この場所はおとぎの国。