天の沼矛をしっかりと握りしめながら、我の神は、自分にも、いい聞かせるように申された。

「神の姿をしている貴の神は、すでに、人間の肉体を捨てています。しかし、人間の意識は、まだ残っています。そこで、このようなことを申しているのです」

「はい!」と、貴の神は答えたものの、

どのようにして、意識の切り替えができるのか!? 「人間は死んだと自覚すればよいのです」

「はあー!?」

「神である意識を強くもてば、そのうち、人間の意識は消えるでしょう」

なるほど、このような問答をしている間に、貴の神(私)の身は軽くなり、 心はあるがままになっていくのが実感できた。

やがて、これまで持ちつづけた不安や疑念は、貴の神から、すっかり消えてしまい、貴の神は、全神無人の神、ほんとうの貴の神、完全な天つ神に生まれ変わったのであった。

このような貴の神を見届けられた我の神は、

「では、天の八衢から、高天原に向かって出発しましょう。これから先は、神のみに許される神の道です。神の道は、神通力の道ですから自由自在です」

我の神は、貴の神に、天つ神の心得を 指南(しなん)(教え導くこと)されながら、高天原への案内をはじめられたのである。

案内の目的は、もちろん、伊弉諾の尊より先の、天つ神への参拝であり、新事記をしるすことである。

天上界といえども、善神(和魂)も悪神(荒魂)も共存されている。案内役兼指南役の我の神は、貴の神以上に緊張されているにちがいない……。

 

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