【前回の記事を読む】天地創造と神々の誕生をめぐる神秘の旅へ――双つ神と独り神、それぞれの役割と神代の物語を辿る壮大な神話的対話
承の章 古事記(天上界)
事物になれる神
十三、
何もみえないなかで、我の神が、突然、申された。
「ここが、国土・事物の根源の二神が、ましますところです」
「しかし……」
「みえないから、根源(みなもと)の国なのです」
貴の神は、混乱した。もう、いよいよ、ついてゆけない。何もみえないのが根源の国だとは、どうしても、理解ができなかったのである。貴の神の胸中を察した我の神は、
「さきに、天上界と地上界は、真実(神)の世界と真実の姿(事物)の世界と申しました。しかし、それだけでは、説明が十分とはいえませんでした。少し、長くなりますが、補足をしましょう」
我の神は、貴の神を案じながら、
「天の八衢に着いたとき、このようなことを申しました。『貴の神は、半神・半人の人間(半霊体・半肉体)から、全神・有人の神(地上の霊体・残肉体)におなりになり、この天の八衢までおいでになりました。しかし、天上界には全神・無人の神(天上の霊体・無肉体)でなければ、行けません』と。……覚えていますか」
「はい」
とは、返事をしたものの、そのときの、かりそめの命(今の貴の神)には、その意味は未消化のままであった。
我の神は、貴の神に念を押すように、申された。
「天上界でみえた人間は、地上界の人間と、同じようにみえたかもしれませんが、肉体のない、霊体だけの人間です。いや、神なのです。今の天上界でみえた、あらゆるものは、霊体、すなわち、あらゆる神々なのです」
貴の神に、少し、明るさがみえてきた。
「神には、霊体がみえますが、地上の人間には、肉体はみえても、霊体(神)はみえません。ですから、人間が半霊体・半肉体といっても、人間には、半肉体の方はみえても、半霊体の方はみえないのです」
貴の神は、なるほどと思いながらも、それでも、何か、もやもやしている。
「人間は、生まれたときに、名がつけられます。このときが、まさに、霊体(神体)が、肉体に宿ることになります。肉体につけられ名に、神(霊体)が宿り、半霊体・半肉体の人間が、生まれることになるのです。ですから、人間は、肉体を生みますが、霊体を生むわけではありません。霊体は神(天上界)からの、授かりものなのです」
どうやら、腑(こころの底)に落ちたらしく、貴の神の顔に緩(ゆる)みがみえた。