一気に話された後、

「高天原の神々について、もっとも、詳しいのは、口述の稗田阿礼であろうと、伊弉諾の尊は、お考えになられたのでしょうか……」と、

語気を弱められたのである。後で聞いた話であるが、ここで、あれの命が語気を弱められたのは、つぎのような理由があったという。

─詳しいのは、伝承(でんしょう)の上のことで、実際に知っているわけではない。実際に、天上界に行き、神々の案内などできるはずもない。

それでも、伊弉諾の尊のご命令である。逆らうことはできない。救いは、困ったとき、天の沼矛にすがるがよい、との伊弉諾の尊のお言葉であった。

七、

「さて、これから、あなたのことを貴(たか)の神(かみ)、わたくしのことを我(が)の神(かみ)と申します。微力ながら、ご案内をさせていただきます」と、

明るくて、朗らかである。その声は、清らかで、透きとおっている。

我の神(あれの命─わたくし)は、貴の神(かりそめの命─私)を気遣いながらも、ことの経緯(けいい)(ことの流れ)とともに、お役目の決意を披露(ひろう)(あらわすこと)されたのであった。

「これからは、貴の神は、人間の意識を捨て、神の意識を強くもたなくてはなりません」

「はあー!?」

「貴の神は、半神・半人の人間(半霊体・半肉体)から、全神・有人の神(地上の霊体・残肉体)におなりになり、この天の八衢までおいでになりました。しかし、天上界には、 全神・無人の神(天上の霊体・無肉体)でなければ、行けません」