4階の資本市場部長の席の前には、営業企画部の部長、次長、同期の調査役も呼ばれていて、我々が揃うと大声で説教が始まった。

資本市場部長は取締役、プロジェクトファイナンス部長、営業企画部長は平部長だったので、上からの“お言葉”となる。

要は、“業法を超えた領空侵犯を行った罪は重く、今迄何も知らせず、勝手に案件を進めていたのは権限逸脱”との主旨であった。

何をした訳でもなく、結果として、そうした名誉ある初引受実績と収益機会(60 万ドル)とを享受できるのであるから、とは皆内心思いつつも、ストーリーを全く変えて、英国F証券が案件を発掘し、資本市場部が中心にバックアップして取りまとめた、という形にして行内外に発表することを条件に、何とか収めてもらうことにした。

これをきっかけに、他の英銀行の同様案件も導入でき、英国の証券子会社と、Fリース社は業界でのそれなりの地位と収益を得ることになるのだが、結果として良ければそれで良かったと言うべきかもしれない。

上司の部長からは迷惑そうな顔をされたものの、叱られることは無かった。営業企画部の次長と同期の同僚、営業部の審査役と打うちあげ上の飲み会で語らったことが楽しく思い出される。後日、英国子会社の英人社長が出張で来日した際にくれたクロスのサイニングペン(Lloyds Bank FRN 1988 と刻印されているもの)が手元に残っている。

行内での一連の熱りが冷めた頃であったろうか。本件で協働したスイスの某行より、ランチの誘いがあった。自分のポケットでは出せない額のご馳走を頂きながら、デザートが出される頃に向かいに座った米人の東京支社長より「ウチに来ないか?」との誘いを受けた。「君なら3千万はベースで、後は出来高制の賞与で」との話であった。当時の給与は6百万円位であったろうか? 

ただ、入行来受けて来た仕打ちにも拘らず、それでも自分の銀行を好きでその将来を信じていた自分は、その場でお断りしてオフィスに戻った。

 

👉『「もう時効?」昭和から平成の”限界的金融界”裏話』連載記事一覧はこちら

【あなたはサレ妻? それともサレ夫?】「熟年×不倫」をテーマにした小説5選

【戦争体験談まとめ】原爆落下の瞬間を見た少年など、4人の戦争体験者の話を紹介