大西さんは、一代で配食サービスの会社を立ち上げ、奈良県では結構有名な会社に育てた男性です。しかしワンマンのため、会社で意見する人もいないぐらいです。

大西さんは、タカシ先生が勤めるクリニックに何度も受診し、そのたびに従業員に説教し、ゴルフの自慢をして帰ります。大西さんに対応できる看護師が限られ、大西さんが受診されると、奥に逃げてしまう看護師もいます。

徐々に点滴の内容が前と違う、量が少ない、昨日は点滴を頼んだのにしてもらわなかった(看護師や事務に聞いてもちゃんと点滴していたと、皆が証言しています)、などクレームが増えていき、そのうち看護師にしつこく説教するようになってきました。

これらのクレームは、大西さんの認知症が悪化しているためと思えました。しかし、さすがに認知症のためとはいえ、タカシ先生も堪忍袋の緒が切れ大喧嘩になりました。

タカシ先生が、もう二度とこのクリニックに来ないようにと言ったため、大西さんは憤慨し二度とクリニックに現れる事はありませんでした。

人間の脳は、進化した脳ほど興奮を抑える機能が発達しています。興奮しやすい人や切れやすい人ほど脳の機能は未熟です。年を取ってから切れやすくなった人は、脳の動脈硬化のため機能が落ち、感情を抑える事ができなくなっています。

認知症の人がすぐ興奮し、手がつけられなくなるのも同じ現象です。大西さんも酒やタバコが大好きで脳の動脈硬化が進み、認知症を発症したのではないかと思います。

このような人に対応するのは本当に大変で、これが解決方法というのはありません。一人一人に合った解決方法を模索し、辛抱強く対応しなくてはなりません。専門知識もなく、人手が限られる忙しい外来で、このような人に対応する事は至難の業です。

その後、大西さんは病院の認知症外来を受診しているらしい、と看護師が話していました。タカシ先生とのバトルを忘れてしまっているといいのですが、少し反省しているタカシ先生です。

 

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