「まあいいや……。それで君、名前を聞いてもいいかな? あ、さっきの会話で埋もれたと思うからもう一回言うけど、俺は皆木和也で、こっちは矢崎颯斗ね」

「あっ。すみません挨拶していなくて……。私は小花あかりです! 小さい花と書いて〝こはな〟です」

容姿的にも、この場の環境から考えてもピッタリな苗字だと納得した自分が、なぜか許せなかった。

「小花あかりちゃんか! いい名前だね! ちなみにここには小さい時からいたの? 俺も颯斗も、小学生の時よくこの花屋に来ててさ。でも小花さんを見たことないなあって」

「お二人と同じです。小さい時によくここに来て、柏木さんにお世話になったんですよ。私もそれなりに大きくなって力もついたので、中学生になってからはお手伝いをさせてもらってるんです」

小花あかりは、いつの間にか周りの片付けを始めていた。さっきまでの快活さが嘘のように、極めて穏やかな言動だった。感情の起伏が激しいタイプなのか、元々子供のような性格をしているからなのか、僕は目の前の女の子の正体を掴めずにいた。

なぜだか心に引っかかりを感じる。元気であるのに、なぜ暗い寂しさを感じるのだろう。

「そうだったんだ! 俺と颯斗もたまに手伝ったりしてたんだ! ちなみに失礼かもだけど歳はいくつ? 俺たちとそんなに変わらない感じに見えるんだけど。合ってるかな?」

「私は十五歳です! 今年の四月から高校生になります」

「え! じゃあやっぱり俺たちと同い年じゃんか! なあ颯斗?」

「あ、うん。でも中学で見たことないけど、俺と和也と同じ横西台中学じゃないよね?」

小花あかりはまた、快活な態度に戻った。

「はい! あ、同い年だから敬語使わなくていいのか」 あははっ!と、小花あかりは笑う。彼女が笑うと、周りの空気が晴々とする。その笑いに呼応するように、風が周りの花弁を揺らす。

「はは、そうだよ。タメ語でいいよ」

笑うつもりは毛頭なかったけれど、僕も小花あかりにつられたのか、自然と笑みが溢れ落ちた。いい感じやん。そう呟く和也の声。意地悪な表情を浮かべていることは、見なくてもわかるし腹が立つので、あえて無視した。

次回更新は7月23日(水)、21時の予定です。

 

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