【前回の記事を読む】花屋の店先、彼女の額は汗ばみ、髪先に伝う水滴は艶を放っていた。阿呆になった僕の目は制御を失い…

ハーデンベルギア

ガッシャン!     

和也の声を遮るように、僕らの耳と周りの空気を劈(つんざ)く爆音が、辺りの全てに振動を伝えた。手に持っていたシャベルの数個入れられたバケツが、その子の手から滑り落ちていた。

驚く僕らとは対照的に、その子は目を瞠って僕から視線を外さない。目の前で起きている出来事の要因の不明瞭さに、僕は激しく動揺した。初対面である女の子に対し、何か粗相でもしてしまったのだろうか。あるはずもない疑念が頭の中を駆け回るけれど、やはり皆目見当もつかない。

「だ、大丈夫? 颯斗もだけど……」

和也がこの沈黙を破り、心に僅かな余裕を生んだけれど、それでも僕は声を出せなかった。

「ああ! ごめんなさいごめんなさい! 私うっかり……。何か物とか当たらなかったですよね? お怪我とかあったら……」

先ほどまでの、獲物を狙う獅子のような彼女の静けさの余韻はどこかに消えていて、大げさな身振りでその子は慌てふためいた。その身振りから生まれる微風が、ショートカットの髪を内側から浮かす。

和也の言う通り、性別問わず羨まれる端正な顔立ちで、潤いがある薄い唇を輝かせ、細身で白い肌を日光に反射させていた。しかしその美しさに反して、清楚とは無縁のお転婆な性格であることが、その身振りから簡単にわかった。失礼だけど。

そして心中の糸が解れたのか、僕はようやく声を出すことができた。

「いや、俺たちは大丈夫。なあ和也?」

「ああ! 全く問題ないよ! 急に知らないやつから話しかけられたらびっくりするよね。ごめんね」

僕たちの言葉に安堵したのか、「よかったあ」と、聞こえるか聞こえないかの声でその子は呟く。

「それにしても、なんであんなに颯斗をじっと見てたの? もしかして知り合い?」

和也の質問。その答えは、暗に僕を侮辱する発言の全力投球だった。

「あ、すみません……。いやなんか辛気臭い顔してる人がいるなあって、じっと見ちゃいました!」 てへへ、みたいな顔をしているけれど、失礼すぎる。少し気合いを入れて、僕は反論する。

「いや、初対面でひどくない? その言い方。君だってほっぺに土がついてて、変な感じだよ?」

「え?」

 その子は頬を拭う。少し赤面して、僕を睨む。

「そういうのはこっそり言うもんですよ? デリカシーなさ男さん」

「はあ?」

確信できる。この出会いは忘れないと思う。もちろん、嫌な記憶として。

「やめい! なんで初対面で言い合いなんてできるんだよ」

「だってこいつ(この人)が!」

僕と彼女の視線はぶつかり、そして勢いよく互いに顔を逸らした。反省の欠片も差し出さないその子に向かって、また捲し立ててしまいそうな自分を、僕はなんとか蓋をして押さえ込んだ。和也が僕とその子を交互に見て、少し呆れた顔で話を繋ぐ。