四、めちゃめちゃ悩んでしまうやないかい!

「さあ、どうって、言われても……」

花楽亭喜之介の目の前に座っている男は、そっけない。

「いやいや、もうちょっと親身になって考えてくれよ」

懇願するが、男はニヤニヤと笑ったままアイスコーヒーをおいしそうに喉に流し込む。

「自分のことやから、自分自身で決めたらええやないか」

男は突き放したように言う。

「それが決められへんから、相談してるんやないか。なあ、源太郎師匠!」

「え? 急に師匠扱いするなよ」

源太郎師匠と呼ばれた男は少し照れたような表情になった。

喜之介が相談しているこの男は……桂源太郎(かつらげんたろう)。同じプロの落語家だが、世間的な知名度においては喜之介と雲泥の差がある。

関西ローカルではあるが、テレビの情報番組のコメンテーターを務め、さらにラジオでは自らの名前を冠した番組も持っている。

テレビでは即興性にうまく対応して重宝がられているし、ラジオでは一般の人々の怒りや不満を笑いに包みつつ代弁するところがウケている。

マスコミに順応するスキルはなかなかのもので、落語好き以外の人からも広く知られている、いわゆる売れっ子だ。

喜之介より入門した年が一年早く、落語の世界では先輩ということになるが、大学時代からの知り合いで年齢も同じ。

通っていた大学は違ったが、お互い落語研究会に所属して活動する中で、色んな大会で顔を合わせるようになり仲良くなった。言わば同期のような感覚だ。