沈丁花

沈丁花(ちんちょうげ)の ツーンとした薫(かお)りが 漂(ただよ)う

霧の中 見わたせど 目に入らず が

春の囁(ささや)きのように 心がときめいてくる

小学生の頃 作った 手製のポストは

自転車の 軋(きし)む音を 待ち

ポストに入る郵便物の ストン という音に 胸がおどった 日々……

あのポストの横に この沈丁花が咲いていた

はにかむ 幼い私を笑うかのように

この花は 知っていたのだろうか

十年後 二十年後 三十年後の 私の心の移り変わりを

今 光る あなたに

歩き始めた あなたの足

しゃべり はじめた あなたの口元

悩みはじめた あなたの目

怒りはじめた あなたの背中

そして 立ち止まる あなたの握(にぎ)り拳(こぶし)

振り返る あなたの顔

涙 光る あなたの頬には

きっと それを 乗り越える 笑顔を ひめている

 

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