沈丁花
沈丁花(ちんちょうげ)の ツーンとした薫(かお)りが 漂(ただよ)う
霧の中 見わたせど 目に入らず が
春の囁(ささや)きのように 心がときめいてくる
小学生の頃 作った 手製のポストは
自転車の 軋(きし)む音を 待ち
ポストに入る郵便物の ストン という音に 胸がおどった 日々……
あのポストの横に この沈丁花が咲いていた
はにかむ 幼い私を笑うかのように
この花は 知っていたのだろうか
十年後 二十年後 三十年後の 私の心の移り変わりを
今 光る あなたに
歩き始めた あなたの足
しゃべり はじめた あなたの口元
悩みはじめた あなたの目
怒りはじめた あなたの背中
そして 立ち止まる あなたの握(にぎ)り拳(こぶし)
振り返る あなたの顔
涙 光る あなたの頬には
きっと それを 乗り越える 笑顔を ひめている
【イチオシ記事】一通のショートメール…45年前の初恋の人からだった。彼は私にとって初めての「男」で、そして、37年前に私を捨てた人だ
【注目記事】あの臭いは人間の腐った臭いで、自分は何日も死体の隣に寝ていた。隣家の換気口から異臭がし、管理会社に連絡すると...