第一章「柿」栽培への新たな挑戦
1 柿栽培の開始
親から柿栽培を引継ぐ
父親が突然入院したのは、昭和五十九年私が三十五才の時であった。腎臓の病気なので、体力を使う仕事は避けなければならない。
十一月の初めで、これから収穫が忙しくなるという時である。収穫は、毎年手伝いをしていたので、特に問題はなかったのだが、そこから先は全くの素人であった。
私は元々植物が好きで、庭木等に興味を持ち始めたのはちょうどこの頃であった。だから、柿栽培を始めるちょうど良いタイミングであったかもしれない。
普通であれば、毎月農協から送ってくるチラシに従って作業すれば済むことで、悩むことも、勉強することもなかった。しかし、柿栽培もおもしろそうな気がして、自己流でやることにした。
そこで、まず柿栽培の全体をつかむため、植物全体に関する本を読んで勉強することにした。植物の栄養吸収の本。病害虫の本。土壌中の微生物の本。肥料の本。
そして、植物の生理に関する雑多な本。である。
さて、親から家業を引継ぐということは、長男としてごく普通のことである。しかし、地方公務員としての本業があるので、柿栽培は、当然片手間の仕事になるはずであった。
そしてこの時、八・五反という柿畑は、家内と母親と私の三人では困難な面積であった。
ただ、八・五反といっても、成木が三・五反で、残り五反は五年生の幼木であった。成木に換算すると五反くらいであろうか。
それでも幼木は、だんだん生長するから、やがては不可能な面積になるはずである。
それで、省略することのできる作業は何かと検討したところ、草刈り、水やり、せん定枝の処理・落葉の処理が候補に上った。
その結果、草刈りを年一回だけ実施するだけで、他の作業は、全部省略することで、当分の間乗り切ることにした。