どこにでも悪ガキやいじめっ子はいるもので、私達が預けられた村にもいた。いつも五、六人でたむろして行動する連中である。その村に来て何日か経ってから、村の空き地で私と兄は悪ガキに取り囲まれた。六人のうちの一人がナイフをちらつかせて私と兄を脅した。彼等流のよそ者に対する挨拶のようなものであろう。
私の兄は身体こそ丈夫ではなかったが、度胸があった。私は内心、胸がどきどきしていた。素手なら相撲と同じで何度も投げればよいが、相手はナイフを持っている。兄はナイフを持った相手を睨んで言った。
「刺せるものなら、刺してみろ」相手は本気で刺す気はなかったのか、兄の気迫に押されたのか、何かぶつぶつと言いながら去っていった。兄は私に言った。「いいか、脅されても怖がるな。怖がると、よけいに相手は面白がっていじめるぞ」と。
兄の言ったことは当たっていた。私一人の時に悪ガキ達は取り囲んだのである。すでに薄暗くなり始めていた、私は兄の言葉を思い出していた。私は兄のようには相手を脅すことはできなかったが、無言で怖くないふりを続けることはできた。悪ガキは前回、自分の顏をつぶされたナイフの男がリーダーであった。
私が怖がる風でもないと分かると「こいつ、変わってんな」とぶつぶつ言いながら離れていった。その後も様々に手を変えては嫌がらせをしてきた。
預けられている村でもそんなことがあって、クロのことはたまに思い出す程度であった。
ある日、学校から帰るとクロが飛び付いてきた。しきりにしっぽを振って私の周りをぐるぐると走り、飛び付いては喜んで吠えている。クロの首には首輪と丈夫そうな紐がついている。クロは紐を噛みきってきたのである。
クロの口の周りが血で滲んでいた。普通の紐は簡単に噛みきるので丈夫な紐に変えたのであろうが、クロはそれを噛みきる時に自分の口の周りを傷つけたのである。私は嬉しかったが、私になついているクロを他人の家で飼うことは難しいと思った。