以前からキヨと話をするシンはいつもふてくされた機嫌の悪い顔をしてキヨに愚痴を言っていたのを知っていたのだ。感情に任せて怒鳴った私はふと我に返ってキヨに目をやった。キヨは黙ったまま悲しそうな表情を浮かべて私を見つめている。

孫の私が大事な息子に店を出ていけと言ったのだ、キヨはショックを受けているに決まっている。私は絶対に言ってはいけないことを口走ったのだ。私はゲーム機を抱きかかえてサエと一緒に部屋を出た。

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私が中学校に上がった13歳の頃だ。常磐町から国道を車で20分ほど南に走ったところに新しいショッピングセンターができた。いくつものバルーンが空高く上がりたくさんの人で賑わっている。

ショッピングセンターの大きな駐車場の一角に、黒ぶち眼鏡をかけ縦に赤と白のストライプの上下の服で、服と同じ柄の三角の帽子をかぶせたニコニコ顔の愛嬌のある人形が「いらっしゃいませ」の垂れ幕を上げたり下げたりしている。

その人形が置いてある建物が叔父シンとそのお嫁さんが働くレストラン黒船だ。シンはその1年前32歳の時にお見合い結婚をした。市の繁華街でうどん屋を経営していたシンの友達が声をかけてくれて、2人の共同経営でショッピングセンターにレストランをオープンしたのだ。

 

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