俳句・短歌 短歌 故郷 2020.09.08 歌集「星あかり」より三首 歌集 星あかり 【第11回】 上條 草雨 50代のある日気がついた。目に映るものはどれも故郷を重ねて見ていたことに。 そう思うと途端に心が軽くなり、何ものにも縛られない自由な歌が生まれてきた。 たとえ暮らす土地が東京から中国・無錫へと移り変わり、刻々と過ぎゆく時間に日々追い立てられたとしても、温かい友人と美しい自然への憧憬の気持ちを自由に歌うことは少しも変わらない。 6年間毎日感謝の念を捧げながら、詠み続けた心のスケッチ集を連載でお届けします。 この記事の連載一覧 最初 前回の記事へ 次回の記事へ 最新 精一杯精密業で物造り 最良目指し気を入れ励む 独り身の吾が恋い慕う乙女らに エトス切り無くパトス果無し 兄弟とトランプゲーム楽しんだ 吹雪激しく休校した日
小説 『春のピエタ』 【第7回】 村田 歩 刑務所で、お袋と13年ぶりに対面…こんなに小さな女だったか―。あの頃、生活が苦しく、いつも歯を食いしばっていたお袋は… 俺たちは婆さんより早く呼ばれた。刑務官に案内されているとき、初めて親父が落ち着かない様子を見せた。首から下は先を行く刑務官に素直に従っているのに、首から上はまるで道を見失ったかのようにあたりをきょろきょろ見回している。勝手が違う、といった顔だ。俺は急に不安になった。悪い想像が浮かぶ。たとえばお袋は急病で、敷地内の医務室のベッドで身動きできなくなっているのではないか。だからいつもの面会室で会うこと…
小説 『溶けるひと』 【第11回】 丸橋 賢 とある歯科医が行ったかみ合わせ治療で、鬱や不登校が劇的に改善したという。姿勢がピンと伸び、気分もよくなる...嘘のように聞こえるが先入観で可能性をシャットアウトしてはいけない。 そう言って実知は次の四つを挙げた。持って生まれた特性に左右される。完治は目指しにくい。元の学校に復帰は難しいのでフリースクール(通信校)などが良い。薬物療法はあくまで対症療法で、根本的治癒は望めない。そしてこう続けた。「要するに今の治療では治らないと書いてあるのよ。その治療をずっと受けてきたのだから治るはずはなかったのよ。私の勉強不足だったの。何でもちゃんと勉強しなければダメなのよ。本当にごめん…