カウンセラー

私は40歳を迎えた時に化粧品販売の仕事に区切りをつけ、何年振りかの専業主婦に戻ったが、数ヵ月もしないで時間をもてあますようになった。仕事を持ち3人の子供を育てながら家事をして来た私は、ゆっくりこなすことより要領よく時短で済ます習慣が身に付いていた。

夫は「少し家でノンビリ過ごしたら」と言うが、人生は有限である。私の何かしたい病は、益々大きくなっていったある日のこと、新聞折込の中から「子どもの心がみえますか」いうカルチャーセンターの講座を見つけた。

もちろん我が子達のこともあったがその講座を極めて行けば子供の心理カウンセラーになれるかもしれないと、申込みもしてないのに、夢と目標が心に膨らんでいったのである。

講座初日、一番前の席に座り学生気分で大学ノートを広げ、ホワイトボードには何も書かない先生のお話を、聞き逃すまいと一生懸命にノートを取った。講座が終わり帰ろうとすると、先生に呼び止められた。

「君はずーっとノートを取っていたようだが何故そんなに書き残そうとするのかね。頭で理解しようと聞いていた事は、心には何も響かないものですよ」と言われた。私はこの先、心理カウンセラーの資格が取りたいと思っていることと、どうしたら資格習得ができるかを初対面の先生に質問をした。

その時は恥ずかしげもなく「カウンセラーになりたい」などと言った私だったが、後に勲章を受賞するほどの先生であることや、本もたくさん出版されている先生だったことを知った。

先生は「カウンセラーを目指すならカウンセラー研究生の8期生に入りなさい。今、研究生は入れてないが、君は良いよ。すぐ入りなさい」とその場で特別に、心理カウンセラー研究生の8期生として勉強をさせてもらうことになった。

実際に先生の臨床カウンセリングを見て、レポートの提出が必要であるということなども教えてくださった。そのレポートが合格点に達したら1単位がもらえ、さらに別の単位を取らなくてはならなかった。実際のカウンセラーになることは長い道のりだが、レポートの提出で初級カウンセラーの資格が取れることを知った。

私は講座も8期生の研究会も休まず参加して、色んな苦しみの中にいるクライアントと先生との臨床カウンセリングを、勉強させて頂いた。だが先生の臨床カウンセリングは、簡単にレポートを書けるような内容ではなかった。

人の深い苦しみは、カウンセラーに一度や二度カウンセリングをして貰ったところで、その苦しみから解放されたり未来に歩み出せるようなものではないことを知った。私は先生の仰る「傾聴する 共感する」と言うことを少しずつ肌で感じていった。

深い悲しみや苦しみに、もがいている人達は社会通念や常識、何が正しいとか、こうあるべきなどに囚われていて、息をすることさえ苦しく、心が窒息しそうになっている人が多いことも知った。

先生は私達に「カウンセラーを目指す君たちが、まず自分自身のメンタルバンドを外しなさい」と、苦しむクライアントと向き合っていくには、カウンセラー自身が心を縛っている常識や世間体、女だから、男だからというような概念を捨て去ること、自分の心を解放して自由に考えられ、自由に羽ばたける自分になることが、大切だと教えてくださった。

 

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