諭は須佐之男命(すさのをのみこと)が八俣大蛇(やまたのをろち)を退治して草薙剣を手に入れる場面や、大国主神(おおくにぬしのみこと)が因幡(いなば)の白兎(しろうさぎ)を助ける古事を興味津々に読みふけっている。

「大国主神ってオデュッセウスと同じような冒険物語があるね。対戦ゲームができそう。悪の巣窟に立ち向かう正義のヒーローみたい。そういえば、お父さん、宇佐神宮でオデュッセイアと幸若舞(こうわかまい)に筋が似ているって言っていたよね」

「そうそう、百合若大臣(ゆりわかだいじん)だね。夫を待つ妻が宇佐神宮に祈願するとそれが叶って、悪漢を退治する筋立てだったな。たしかにオデュッセウスと大国主神の快刀乱麻(かいとうらんま) を断(た)つ活躍ぶりも通底(つうてい)している」

「きれいなお姫さまが出てくるところもね」

「古代ローマ建国の英雄アエネーアースが冥界に旅すると、半獣半馬のケンタウルスや、七つの頭を持つ水蛇ヒュードラなんかに出くわすんだ」

「ヤマタノオロチみたいだ」。ひとしきり、旅行の思い出話に花が咲く。

岳父(ちち)の俊英と育ての親である伯母の松子が最後の早慶戦を観戦していた偶然に驚きながらも、同じ慶大付属高校の野球部OBで新聞社に勤める胖は、この試合を知悉(ちしつ)していた。

「早稲田の大勝だったはずだ。詳しく調べてみよう。新聞の記事になるストーリーが書けるかもしれない。ところで、ヒデちゃんって誰だい?」

「あ、苗字は聞かなかった」

本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。

 

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