さて、降り——
「……」高い。
登ってきた時は微塵も気にしなかったけど、ここから地面まで少なくとも五~六メートルはあるじゃないか。この高さを、降りるの?
「あんたが降りられなかった理由、なんとなくわかったよ……」
ティーナは子猫に言った。
助けを求められる相手は、ログだけだ。しかし、ログは確かに優しいところもあるが、基本的に性格が悪い。そんな奴に助けを求めたら、バカにされるかもしれない。自分で降りるしかない。
「フー……」
深呼吸して、自分に「大丈夫だ」と言い聞かせた。
慎重に降りようと、ゆっくり立った。本来ならグラグラとバランスを崩すこともなく立てるのだが、ここから落ちたら死にはしなくとも絶対に痛い。怖い。そんな感情があるせいでぐらぐらと体がぶれる。
「おっとととと……」
腕をぶん回してバランスを取ろう……としたが、かえってそれが逆効果になり、片方の足に「立っている」という感覚がなくなった。
「ふぇ?」
足を踏み外して、そのまま重心が踏み外したほうの足に寄っていった。一瞬体がふわっと浮いたかと思えば、頭に強い衝撃が走った。
「ふげ!」
目先に見えるのは地面だ。どうやら、落ちたらしい。
痛む頭を押さえながらさっき肩に乗っていたはずの子猫を探した。
「にゃ……」
子猫は自分の片手の中に乗っていて、怪我などは見当たらない。
「よかったぁ……」
ひとまず、この子が助かったなら結果オーライだ。
次回更新は7月3日(木)、12時の予定です。