猫に噛まれた右手を痛そうに見つめるログをティーナは慰めもしないで、むしろ加害者側に味方している。被害者の日ごろの行いが悪いのか、噛んだ猫に怒る気にもなれないのか。

「にゃあ」

今度は猫は、橋を渡って川のほうへ進みだした。その川は落とし穴のようにも見え、怖いなぁと思いながら橋を渡っていった。橋を渡りきったところで猫は立ち止まり、そばにある木の上に向かって鳴いた。

もしかして、と思って木の上をよく見てみると、自分たちを連れてきた猫より一回り小さい黒い子猫がプルプルと震えながら自分たちを見ていた。どうやら黒猫は自分の子供を助けてほしくてティーナたちを呼んだようだ。

「あー、やっぱり。こういうあるあるシチュエーションって本当に遭遇するもんなんだね」

そこまで大きい木でもなかったが、自分の身長では枝の上まで届かない。そして、自分には木の上まで登る筋力もない。

「ログ、あの子助けられる?」

「わぁーったよ」

ログは、よっと反動をつけて木の上に飛び乗った。

「おーい! ちび助その二。助けてやっから、ほら飛び乗れ」

ログはそう言って、プルプル震えている子猫に手を差し伸べた。子猫はゆっくりと近づいていき、そして……

カプリッ!

「い゛っ……てぇな! おい、なんで噛むんだよ!」

噛まれた痛みで枝から手を離し、ログは地面へ落っこちていった。

「えっ、大丈夫!?」

ティーナが慌てて駆け寄っていくと、ログは頭を抱えて木の上にいる猫を見上げた。

「あの野郎……!」

「嫌われちゃったんだね……もういいや。あーしが登ってくるよ」

木登りなど人生で一度も挑戦したことがない。だが、ログが子猫に嫌われてしまった以上、自分しかいない。なんとか、登ってみようと木に手をかけた。すると、

「あ、登れた」

普通に登れた。やればできるものだなぁ。ティーナは、子猫に手を差し出す。

「ほらー、おいで。あーしはさっきの奴みたいな不審者じゃないよ~」

「一言余計だ」

すると子猫は近づいてきてくれて、噛むこともしないでティーナの肩に乗っかった。なんとか子猫も懐いてくれて、一安心だ。