【前回の記事を読む】定規で五本の平行線を引き、オタマジャクシを一つ一つ写す。市販の五線紙は高価で、このころは手に入れにくくなっていた。

一年生

「歌いながら色を想い浮かべられる曲があるだろう。『冬景色』の一番なら冬の早朝の霜を思い出す白だ。小春日和の温かい白でも、時雨の寒々しい白でもなく、ここは霜の淡い白でなければならない。この『秋のさゝやき』では何色がこころに浮かぶ?」

「歌詞に『大空を流れゆく黄(き)ばめる陽ざし』とありますから、晴れた秋の日の、午後の陽ざしの黄色でしょうか」

サエさんが自信無げに答えると、

「午後でも早い時間だと透明にちかい黄色だし、夕方だと夕焼けの赤の混じった黄色にな る。いつの黄色だ?」

「午後三時を過ぎた、少しだけ赤味のかかった黄色だと思います」

「あぁ、そう。でも君たちの歌は、一人ひとりがいろいろな色で歌うから色が混じって全体が黒っぽく聞こえる。それじゃ、午後三時過ぎの、少し赤味のかかった黄色でもう一回歌ってみよう」

今度は歌の情景がはっきり目に浮かんで、歌が揃った。朋は音楽が出来上がっていく様子を初めて経験した。

ある日の練習のこと、佐々木先生は指揮棒を下ろすと、

「井田、お前の声は張りがあっていい。けれど、お前の声しか聞こえてこない。全体のバランスを考えてもう少し声を落としてくれ」

シズちゃんは赤くなりながら「はい」と答えた。

「それから諸橋、自信の無さが聴き手に伝わってくる。少しくらい音が外れても構わないから堂々と歌え」

マコちゃんも真っ赤になりながら、小さな声で「はい」と答えた。