シズちゃんが少し驚いた顔付きで聞き返した。
「みんなにいろいろ教えてもらったり、迷惑をかけているから、ヤッチンは私を誘ったことを後悔しているんじゃないのかなぁ」
「そんなこと無いわよ。私もマコちゃんも、いろいろ教えてもらったり、直してもらっているもの。教えてもらっても、誰も迷惑だなんて思ってないわよ。みんなで助け合って成長していけるって楽しいじゃない。ヤッチンも同じに思っているはずよ」
「そうかなぁ」
「そうよ。そもそもヤッチンはね、みんなを誘っていたの。専攻科への進学が決まった人全員に『合唱部に入ろう』って声を掛けていた、だからトモちゃんにも声をかけたのよ」
「誰でもよかったのか……」
朋はなんだか少し気落ちした。
「そう、来てくれるなら誰でもよかったの。彼女は、来てくれる人なら誰でも一緒にやっていこう、というひとだから。そして、誘った人を後悔するようなひとじゃないから。
ヤッチンはね、昔から人をまとめるのが上手かった。本科の一年生からずっと級長で、専攻科でも級長で、この分だと卒業するまで級長なんだろうけど、みんなをまとめて、引っ張っていく才能みたいなものがあるのよ。
私、三年生のときにヤッチンと同じクラスだったんだけど、私はキリスト教の牧師の娘で、ヤッチンは神社の神主の娘で、何かと比べられて嫌だったな。
それぞれの宗教の代表選手のように見られて。教会は白い目で見られている上に、いつも負けていて……。でも彼女に勝てる人なんて、どこにもいないけどね」
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