朋も何か言われるか、と首をすくめたが、先生は何も言わずに次の曲に移っていった。なんだか自分だけ相手にされなかったようで、少し寂しかった。

また、ある日、先生は、

「終わりの六小節からアルトは、もっと大きくディミヌエンド(徐々に弱く)して。もっと大きく」

と言った。練習のあとでミサちゃんは、

「何でアルトだけ大きくなのよ」と少々納得できない口ぶりだったが、

ヤッチンは「そうすると、アルトに続くメゾが少し早くディミヌエンドできるでしょ。それであとに残ったソプラノがゆっくり静かに終えられる。だから、アルトには大きくして欲しいんじゃないの」

「そういうことか」

横で聞いていた朋は、

(なんて高度な話なんだろう。自分も早く彼女たちと同じくらいに成長したい)と思った。

しかし、音楽初心者の朋にとって、合唱は手ごわかった。時々、楽譜の戻り記号を間違えて別の小節を歌ったり、微妙にズレた音を響かせてしまったりした。

微妙にズレたアルトが聞こえてくると、佐々木先生は眉根をよせてアルトパートを睨むのだった。マコちゃんには少しくらいズレてもいい、と言っていながら。

そうした時は、みんなに助けてもらって、正しい音を確かめたり、戻り先を教えてもらっていたが、それが度重なると自分がお荷物になっているように思えて、だんだん自信が無くなってきた。

シズちゃんやマコちゃんは、ちゃんとみんなに付いて行けているのに……。だから、シズちゃんとマコちゃんとの新人三人組が一緒になった帰り道でシズちゃんに聞いてみた。

「ヤッチンは、どうして私を合唱部に誘ったんだろう?」

「えっ、それはどういうこと?」