歩きだそうとした時、「君たち、ちょっと待ってくれ」と、一人の警官が走り寄ってきた。

「ちょっと話を聞きたいから、一緒に来てくれる?」

僕たちは頷き、警官に従った。そして十年前に暴漢を捕まえ、表彰された警察署で、事情聴取を受けた。

太郎の妹は警察署に初めて入ったと言い、目を輝かせ、キョロキョロしている。太郎と彼女は体を張って子供を守り、犯人を捕まえたので表彰されるだろう。

警官に聞かれたことを、ありのままに淡々と答えていると、スマホの着信音が鳴った。画面表示に、ふくちゃんの名前が出る。警官に頭を下げ、電話に出た。

「光、今どこ?」

心なしか僅かに声が震え、緊張している様子が伝わってくる。「何かあったの?」

電話に手を当て小声で話す。

「大変なの! 達彦が事故で病院に運ばれて、今病院に向かってるの。光もすぐに来て」

ふくちゃんの緊迫した様子に、スマホを持つ手が痺れたように震える。

「どこの病院? うん、すぐ行くから」

それだけ伝えると僕は電話を切り、警官に事情を話した。

「後で電話する」

太郎に言い、警察署を後にした。父が運ばれた病院は、警察署から走って十分ほどの場所だった。家からだと車で十五分はかかるので、警察署にいて良かったのかもしれない。

次回更新は6月25日(水)、20時の予定です。

 

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