太郎と女性は、同時に額の汗を拭いながら僕のもとへ歩み寄ってくる。二人の晴れやかな顔つきに、なぜか胸が高鳴る。
「初めまして」
子供を守った勇敢な女性が僕に微笑む。石鹸の香りが、心地よく鼻をくすぐる。ドキドキが止まらないとはこんな時に使うのだと思った。女性に対する初めての感情だ。
ポニーテールがよく似合う彼女を見つめていると、「俺の妹」と太郎がぼそっと呟いた。
「妹?」
妹がいるのは初耳だった。太郎は家族について語ることがなかったし、ふくちゃんも僕も、勝手に太郎は一人っ子だと決めつけていた。
しかも、にこにこと満面の笑みで明るく挨拶する彼女の姿は、太郎とは似ても似つかない。前髪も眉毛の上にある。
「あ、初めまして」
鼓動が速くなる胸を押さえ、挨拶を返す。
「妹の可憐です。いつも兄がお世話になってます」
丸く大きな目を細め、頭を下げる姿にキュンとする。
「いや、僕は何も……」
慌てて首を横に振った。
「じゃ、どこか入って食事しようか」
何もできなかった自分が急に恥ずかしくなり、彼女から視線を外し太郎に聞く。太郎はいつものように、こくりと頷いた。