【前回の記事を読む】祖母は言った「国と国との戦争で、必ずそこには〝死〟がある」と。僕は祖父に諭された気がして玉音放送の全文を手に取った。

第三章 別れと出会い

二〇二三年

天皇陛下もまた、心を痛めていた。

昭和十六年九月六日、宮中で御前会議が開かれた時、天皇は和歌を詠みあげた。

よもの海 みなはらからと 思ふ世に など波風の たちさわぐらん

「世界の人々が皆、同じ父母から生まれた兄弟姉妹のように思いあえば、戦争は起きないだろう」というような意味だ。

明治天皇が日露戦争が始まる直前に、御前会議で詠んだ和歌だった。しかし、昭和天皇がこの歌に託したとされる真意は分からないが、この歌とはうらはらに日本は日米開戦へと突き進んでいった。

一つの国が戦争を始め、一つの国を滅ぼす。そしてまた一つの国が戦争を始め、一つの国を滅ぼし、そしてまた戦争が始まる。

そうして、最後に残った国も、同じ国の人間同士で争いが起きれば、世界に人間という存在がいなくなるかもしれない。

戦争から平和は生まれないのだ。戦争こそが人類滅亡の危機なのかもしれないとさえ思う。

そして、前世で臣民と呼ばれた人々の記憶を視ることのできる僕に、一体何ができるのだろうか。神が与えた能力ならば、繰り返される悲劇を止めろということなのか?

いや、頭のいい人間ならまだしも、偏差値は極端に低い僕に、前世の夢を見る以外に何を成せというのだ。

僕は、途方に暮れた。