【前回記事を読む】あれから数か月。動かなくなった彼女の体には苔が生え始めた。もう分かっていた。彼女は「壊れた」んだ。食料も底をついてきて…
第一章 ロボットと少女
なんでもないよ
翌朝
いつもより早く起きて、荷物をまとめた。
「帰ってくれ」と言われたから、ナギサを置いて、家に帰ることにした。いつもは心地良い虫やフクロウの声もナギサがいない夜は、怖くて怖くて仕方なかったけど、頑張って眠りについた。
ナギサを置いていくのは少し不安で、さらに損傷してしまったらどうしようとも考えたけれど、きっとこれがナギサの願いだったから、ナギサを置いて帰ることにした。とはいっても、外に野ざらしにするより駅の方が安全だと思い、自分が数か月生き延びることができた駅に置いた。
帰っている途中に気がついたことがあった。ナギサは、すごく遠回りをしていた。
まっすぐに行けば一日で着く道を、ナギサは時間をかけて進んだ。
そして、一人だととても静かだった。
いつも隣で聞こえていた声は、もう聞けない。
そして、一日で家に着いた。
荷物を放り投げて、壊れたソファに寄りかかった。ずっと歩いてきたせいで今までにないくらい疲れがたまって、今にも眠ってしまいそうだった。しかし、テーブルになにか紙が置かれてあることに気がつき、ゆっくり起き上がった。
「なにあれ」その紙には、ナギサの字で「ティーナへ」と書かれていて、ナギサが自分に送ったものだとわかった。