【前回記事を読む】――少しの罪悪感が湧く。ロボットである私が育ての親だということ、いつかは壊れて、そばにいてあげられなくなること。

第一章 ロボットと少女

なんでもないよ

「ナギサー、起きてー」

早朝、ティーナは寝転がっているナギサに声をかけて、必死に起こそうとしていた。

数日前、突然ナギサが「スカイツリー」という場所に行くよ、と言い出し、太陽が昇る少し前から早起きしなければならなくなった。

だというのに言い出しっぺの張本人が、未だ起きないのだ。

「ん、んぅ……」

ようやく、ナギサは眠そうに体を起こした。

「やっと起きた。ナギサ、今日はスカイツリーってとこに行くんでしょ? あーしはもう準備できているから、玄関で待ってるよ」

「うん……」

目を擦りながら、ナギサは返事をした。まったく、とティーナは呆れてしまう。少なくとも自分より十三歳以上年上のこの人は、博識で、ティーナが質問すると全て答えを返してくれる。だが、だらしない。特にこの寝坊癖は酷い。いつ見ても呆れる。

数十分ほどすると、ナギサは玄関に来て、「それじゃあ行こうか」と言い、出発した。

その道中、そういえばスカイツリーってどんなところなんだろう?と思い、ナギサに聞いてみた。

「そのスカイツリーって、いったいなに?」

「東京の観光地だよ。原型が残っているかどうかわからないけど」

「どういうこと?」

「文明が滅んでから、富士山の噴火があったんだ」

「ふじさん? フジっていう人がいるの?」

「日本一高い山。それの噴火があって、いろいろ地形とか変わってるし、もしかしたらタワーが崩れていたりとかあるかもしれないよ」

「そんな簡単に崩れちゃうの?」

「うん。富士山の噴火はほかとは比べ物にならない大災害なんだ。一発放つだけで周りの地形は百八十度変わる。もう昔の地図は通用しないな」

「そうなんだね」

そして、家を出て二日目の朝。

二キロほど進んだ時、高い塔が見えてきた。その塔は上半分が折れていて、苔まみれだ。

「ここだ……」

「ここ?」

目を丸くするティーナに、ナギサは答え合わせをする。