どうしようもない胸騒ぎが、胸の中をどんどんと埋めていく。「ここが、スカイツリー」
もう、かつての原型はないけれど、直感で解る。人がいなくなった、置物のような建物に風が吹き抜ける。
「……それじゃあ、ここで待とうか」
「待つ?」
「夜になるまでここで待機するよ」
「嘘でしょ」
ティーナは嫌そうな顔をする。当然のことだ。
だって今はだいたい朝八時。夜までとなると、十時間待機することになる。暇つぶしに、近くの駅を探索することにした。
「近くの駅って?」
「名前は憶えていないんだけど、広い駅だよ。もう売店もなにもかも残っていないと思うけどね」
「へぇ」
塔のすぐ近くにある、「南側入口」と書かれた地下通路への入口へ入っていく。地下通路は白いタイルで埋め尽くされていて、入ってすぐ階段があった。
売店だったものや、改札を見たり、線路に降りたりもしてみた。あっという間に時間が過ぎて、夜六時になった。
「それじゃあ、元の場所に戻ろうか」
「うん」
指示された時間は、夜八時。元の場所に戻ると、ティーナにある指示をした。
「ティーナ、ちょっとここで待っていてくれないかな?」
「うん。なにかあるの?」
一瞬、言葉に詰まった。ナギサは、今できる精一杯の笑顔と一緒に言い聞かせた。
「大丈夫、なんでもないよ」
ティーナをそこに待たせて、準備に向かった。
ナギサに、ここで待っててと言われてから一時間。ナギサは全く帰ってこない。
どんどん日が落ちる中、ナギサもそばにいてくれない恐怖で、泣きそうになっていた。
「はやくかえってきてよぉ、なぎさぁ……」
壁にぐったりと寄りかかって、さっきのことを考えた。
あの時の、ナギサの笑顔。
今まで一度も見せなかった笑顔。
『なんでもない』という言葉。
「本当に大丈夫なのかなぁ?」
『なんでもないよ』
どうしようもない胸騒ぎが、胸の中をどんどんと埋めていく。