去り際
もう一度 逢えませんか
と あの人は 言った
ぬるく 気だるい あの人の声で
わたしは 背を向けたまま
もし機会があれば
とだけ答えた
これで わたしの真意は 伝わるだろう
生暖かく 湿った 六月の風が
ふたりに 等しくふいていた
ふたりを 等しく湿らせた
灰色の世界で
いずれ ふたりに射す 光をみないまま
あの人は去っていった
わたしも いつかは 同じようにここを去ってゆく
六月の 憂鬱な 風をまとったままで
別れ
うつむく私に彼はこう言う、あの時君は美しかったのに。
驚いて見つめ返す私の瞳の強い力に、悪びれずに私の視線を受け止める彼。
ただただ心は崩れ去って、彼から離れる音がした時。
精神性をもとめる私と、そういうものを嫌う彼。
ふたりの間にできた一歩半の距離には、私の砕けた心の欠片が散らばっていた。