「瀬菜さん、これ君に」
「え、」
「だからさ、プレゼント」
「何よ、これ」
瀬菜さんは驚いていたが、もうどうなっても構わない。ただ受けとってほしかった。
「僕からのチョコレート」
「え、ヴァレンタインデー、明日よ。今日は13日」
「知ってるよ。だから、君が、その、ほかの人にさ……」
「?」
僕は思い切って、打ち明けた。
「君が、明日、ヴァレンタインに誰か僕の知らない男に告白する前に、さ、僕の気持ち、先に伝えておきたかった」
「……」
一瞬、瀬菜さんは固まったが、すぐに左手を伸ばして、僕のプレゼントを受け取ってくれた。
「驚かして、ごめんね」僕は何も考えられず、お詫びした。
「なーぜ?」
ゆっくりと、誘導するように、彼女は僕に問いただしてきた。少しいじわるそうな感じ。
「そうしないと、今日、告白しないと、僕、一生後悔すると思った……」
僕は本心を答えたよ。
彼女の目元には自然な笑みが浮かんでいて、僕は少しほっとした。お互い少しフリーズしたままで、彼女の瞳とリンクしたんだ。僕には、瀬菜さんの黒目が大きくなっていくように見えた。心臓がドキドキした。何も考えず無意識に僕は右手を差し出してしまった。すると彼女も同時に右手を……そのあとは自然に……
あと20分もすれば、二人が来る。
時間よ止まれ。僕は本気でそう念じていた。
本連載は今回で最終回です。ご愛読ありがとうございました。