翌日から僕は、瀬菜さんに贈るチョコ作りを開始した。

僕の中で材料はすぐに決まったんだ。瀬菜さんのあの瞳がほかの人に向かっていることを思うと、切なくて、本当苦しい。それまで僕にできることは、瀬菜さんが幸せであることを祈り続けるだけだと、自分に言い聞かせていたんだ。

だけど自然と、愛おしさが湧き上がってくる。その中で瀬菜さんをイメージするとね、それは陽だまりの中の小さな野苺なんだ。守りたくなるような存在。

僕は、ストロベリーとラズベリーにグラニュー糖を加え果実感が残る程度に煮詰めた。それにスパイスのクローブを微量隠し味というか隠し香りとして加えて、ドライストロベリーと一緒にチョコレートで封じ込めた。

カカオニブと発酵バターを加えてオーブンでハート型に焼き上げたクッキーを2枚焼いて、そのストロベリーチョコを挟んだ。しっかりテンパリングしたクーベルチュールチョコで表面をコーティングして完成させた。金粉をほんの少し振りまいて、細やかにエディブルフラワーで飾りつけて箱詰めした。

これが僕の瀬名さんへのプレゼント。

12日、ラッピングを終えて、僕は瀬菜さんにLINEした。君は笑うかもしれないけど、ただLINEするだけのことで僕の心臓はバクバクになっていた。

"明日、お願いごとがあります、明日、みんなより15分前に来てくれますか"

返信がなければどうしようと、ドキドキして返信を待つ間もなく、既読表示と同時に返信があったんだ。

"了解!"

僕はこの"!"がなんか、嬉しくてたまらなかった。けれど、冷静に考えると、慣用的なもかもしれないと思って少し暗くなった。

13日、瀬菜さんは、なんと30分前にやってきた。

ドアを開け、僕は平静を装って笑顔で瀬菜さんを、ほかに誰もいない家の中に迎え入れたんだけど、頭が白紙になった。なにしろ、何か雑談をしてから、僕のチョコを渡す計画だった。けれど彼女は早く来すぎて……。

「どうしたの」

笑顔が可愛すぎて、僕は息が止まりそうだった。だけどその一方で、段取りを忘れて僕は焦りに焦ったよ。そのうちほかの二人が来てしまう。僕はもう、リビングテーブルの上に用意してあった、箱詰めしてラッピングしたチョコレートを、無造作にいきなり瀬菜さんに渡してしまったんだ。