「期限は? いつまでに作ればいい」

「長老たちが来るのは、来週水曜日」

「時間がない」

「そうよ。だから、お願い助けて」

里見の中ですでに玲蓮は愛おしい存在となっていた。なんとしても助けたいという思いが込み上げてくる。

「今日は金曜だし、とにかく200ccずつサンプルをうちの工場にすぐ送って、宅急便か何かで。だけど今日中に着かないと、工場は土日休業だから間に合わない」

「場所は」

「福島県の郡山だ」

「宅急便じゃ間に合わない」

玲蓮が鈴を振ってスタッフを呼びつける。二人の黒スーツのスタッフが駆け寄る。玲蓮は、一人にサンプルを容器に入れて持ってくるよう指示し、もう一人に自分のベンツを持ってくるように指示した。

「至急ね。飛行機でも新幹線でもヘリでもなんでも使って、大至急これを届けるの」

黒スーツの青年がうなずき、iPadで何か調べて、玲蓮に耳打ちする。

「私のベンツを使いなさい。早く、ダッシュ! でも、事故らないでね」

里見の送り迎えに使われていたベンツに黒スーツの男が乗り込むと、ホイルスピンさせ、急発進して消えていった。

里見は、郡山工場の研究室にいる宮澤に電話を入れた。宮澤は里見にとって最も信頼のできる優秀な部下だった。サンプルが届いたら至急分析して、再現シミュレーションを行うよう伝えた。

「昼食の用意をしてあるわ」

同じビルの3階のレストラン。まだ11時なのでほかの客はいない。供せられた一皿目は、何種類かの貝類。湯引きされた赤貝やミル貝はスライスされ、粉を塗され鶏油で軽く炒められており、モヤシ・黄韮(きにら)・香菜の和え物が添えられている。

「ソースは豆豉(トーチ)・大蒜(ニンニク)・醤油・胡麻油。シンプルでしょ。鶏油にはピーナッツオイルを加えてあるの」

自分の知る中華料理と違い里見は感嘆した。寿司ネタのように新鮮な食材の火の通りは完璧で、そそるような鶏油の香りが立っていた。冷やした紹興酒を満たしたグラスが二つ同時に供される。